倒れてからしばらくは、相手の表情を気に掛けながら話すこと少なかったように思う。 入院中であったある日、
普段接する人が自分に対する感じが変である気がした。 同じ部屋の患者さんとの普段ちょっとした会話でも、今まで
の感覚なら自分の話したことに同感していただけますよね?という風に笑みを浮かべ、相手も"微笑み返す"ような気が
するのが普通であったのだが、どうも私に対してそういったことが少ない感じがした。 たまたま鏡でちょっと自分の
微笑みを作ろうとしたところ、見たことのない卑屈な笑みを浮かべている自分の顔が映っていた。 倒れてから今まで、
この表情でいろいろな人と会話をしていたのかと思うと、ぞっとした。 どうすれば笑う表情を作ることができるのだ
ろうと思ったが、そのとき言語のリハビリを受けていて、そこで頂いた舌を動かす練習方法のコピーは顔の筋肉に関係
がありそうな気がしたので、これを重点的に行ってみた。 またマヒ側の顔の筋肉がほとんど動いていないように見え、
そのとき下顎を左右に動かすことが難しかったので、意識して下顎をマヒ側の方に動くようにしていた。
退院する頃には下顎は左右に動かせるようになったのだが、上顎辺りはほとんど動いておらず、鏡を見て笑った表情を
作ったつもりでも、相変わらず引きつった顔であった。
親しい間柄では私が片マヒなり、以前のように笑わない表情に見慣れていて特に不思議に思わなかったと思う。 しかし
退院後は、日常生活では買い物ひとつするだけでも多くの"初対面の人"に会うことになる。 (今はそのようなことは
ないのだが、倒れた1年目の頃はレジの合計金額の表示を見ても小銭の使い方がわからず、どうしても会話が必要だった)
初対面では、まず相手の表情で話しやすい人かどうかを判断されやすいせいか、気持ちのよい会話をしたくても長続き
しないということが多かった。 人から何か手伝ってもらった時は、感謝して笑みを浮かべたいのだが、おそらく無表
情に言葉だけでお礼を言っていたのだろう。 その後、たまたまテレビで爆笑していたとき「微笑みはできないが、いわ
ゆる笑い顔はできているのでは?」と思った。 そこでテレビの隣に鏡をおき、大笑いするタイミングを待ったところ、
大笑いするときの表情は倒れる前とほとんど変わりないことがわかった。 (大笑いしている自分を鏡で見るのは、ちょ
っと照れくさい感じもしたのだが・・) このまったく「笑わない表情」だけから「大笑いしている顔」ができるだけで
も、話をする相手からも笑い返してもらえることが増え、生活が明るく感じられるようになった。
その後は笑う表情について考えることはなくなったのだが、先日岩崎先生から最近顔の表情が変わったと言われ、改めて
現在の自分の表情はどうなっているか考えてみた。 確かに3、4ヶ月前に撮った写真では笑っていない表情だったのだ
が、つい2週間前の忘年会の写真では、ごくふつうに笑い顔が作れていた。
認知運動療法で、顔の筋肉(表情筋)を回復させて頂き本当に感謝しています!